short novel

憧憬



 アンネはずっとサリアに会いたかった。しかし、顔も名前も覚えていない相手は探しようがなかった。


「君のことはずいぶん聞いているよ。最終テスト大変なんだってね」

「そんなことまで知ってるんですか!?」

「そりゃあそうでしょう。相手はこの学校の学長なんだから」

「そうなんですか!」

「あれ、知らなかったの? ずいぶんみんなの前に姿を現していると思うけれど」

「えぇ!」


 青年はそんなアンネの様子を見て、自然に笑みがこぼれていた。

 サリアがなぜこの少女を気にかけていて、最も人を幸せにする魔法に近いのか分かったような気がした。

 しかしそれは一番サリアがよく知っているのだろう。よってこれからサリアに会うならば、青年からアンネに言うことではない。


「でも、サリアさんに私の成績が届いているなんて恥ずかしいです」

「サリア先生はそんなこと気にしていないよ。君の良さはそこではない」


 青年はそこで言葉を切る。


「ほら、着きましたよ」


 アンネが顔を上げると、そこには学長室というプレートがかかっていた。





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