short novel

VS バレンタイン




「あっ、3組の佐藤君だよね」


 ターゲットは俺の名前を覚えていてくれたらしい。それだけで、目の前まで真っ白になりそうになった。


「あっ、これ私にくれるの?」


 天使は優しい上に察しがいい。まさに最高の女性である。


「あぁ。えっーと、これ昨日作ったんだけれど、上手くできなくて……」

「佐藤君」


 急に名前を呼ばれて、俺はやっと顔を上げた。そこには夕日を味方につけて、最高の笑顔を浮かべた女性がいた。


「ありがとう」


 モナリザの笑みの良さは、俺には分からない。というか、一生理解できないと思う。


 バレンタインからの嬉しい奇襲はまだ続く。


「これ、余ったから良かったら食べて」


 目の前には、ピンク色のハートのついた包み紙。義理だってことは当然分かっているけれど、俺は文字通り放心した。





7/9

prev/next



- ナノ -