short novel

VS バレンタイン




 俺は現在、絶賛片思い中であるが、その相手は誰にチョコを渡すかは判明していない。高3である俺たちには、自由登校前の最後のチャンスだ。

 何だか、バレンタイン前日に待ってるのもバカらしくなってきた。それが、事の発端。バレンタインとの戦いの幕開けである。



「姉貴、チョコの作り方教えて」


 台所を戦場にしているため、今日も夕飯はカップラーメンだろう。


「……いきなりどうしたの?」


 姉はとってもびっくりしたみたいで、泡立て器と頬にチョコをつけたまま振り向いて固まる。


「明日私が作るから、自分で作るなんて悲しいことを言うのは止めなさい」


 いや、その状態でできたもの食べるくらいなら自分で作ると言いたいのを抑えて、制服の上からエプロンを着る。


「いいから、教えて!」

「あっ、もしかして、逆バレってやつ?」

「何?何もまだバラしてないんだけれど」


 内心ドキドキしながら答えると、姉はニヤリと笑う。O-1グランプリ(鬼婆グランプリ)があったら、俺は最高点をつける。


「何言ってるの、逆バレンタインのことよ」

「何でもかんでも略すなよ」


 俺は適当に受け流して、姉よりもチョコの作り方を教えてくれそうな料理本を手に取る。

 はじめから間違っていた。自分でもうまく作れない奴が人にうまく作る方法を見つけられるはずがない。


 しかし俺は、さらに間違えることになる。

 普段料理をしない奴が、お菓子をいきなり作れるはずがない。




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