short novel

その眼差しの意味を未だに僕らは知らない





 引っ越してから、時々ある夢を見るようになった。


 大抵は、何か嫌なことがあった時。この前、友達とケンカした時とか、先週あいつにいじめられた時も同じ夢を見た。



 自分の部屋にいて、寝ている。だから、自分は起きているんじゃないかって思う。

 だけれど、違う。だって、部屋に大きな白い犬がいるから。しかもその犬は光っている。現実だったらありえない。


 僕がその白い犬に気づいていると分かると、その白い犬は僕にしっぽをふりながら寄ってくる。

 そして僕の顔の近くまで来ると、僕のほっぺたにあたたかい鼻でふれる。それがくすぐったくて笑っていると、その犬も優しい目で見つめてくる。



 僕には、なぜこの夢を見るのかは分からない。だけれどこの夢を見ると、よく眠れるから悪い気はしない。

 犬が飼いたいから、こんなこと思うのかな?このマンションじゃ飼えないからな。


「遅刻するわよ!」


 ドアの外から母さんの声が聞こえた。


「わ、本当だ!」


 今日もあの犬のことは、遅刻しそうな時間に邪魔されて考えられなかった。

 あっ、今日はテストだったっけ!


 僕は布団から飛び起きて、部屋を出ようとする。


 ドアを閉める瞬間、夢で見た白い犬が座ってしっぽをふっているのが見えた気がした。





その眼差しの意味を未だに僕らは知らない
離れていてもどんなことがあっても遠くから見守っているよ




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