short novel

その眼差しの意味を未だに僕らは知らない




『それはできない』


 この地を滅ぼされるのが時間の問題だとしても、滅ぼされるまでは私はこの地から離れることはできない。

 離れて少年と一緒にいたとしても、私の姿を見ることができるのは少年だけだろう。そのことに少年はすぐに気がつくはずだ。


 私は声に出すことなく少年から目をそらす。少年は私を、野良犬だと信じて疑わないのだから、野良犬以上のそぶりは見せてはならない。

 代わりに、その辺の犬と同じように少年の頬に鼻を寄せる。


「わ! ちょっと! くすぐったいって!」


 といっても、少年は嬉しそうだった。私はそれがこの時だけであったとしても、確かにここにあるのならば、それだけで十分だった。





 いずれ、この地は、開発に支配されるだろう。

 いずれ、この少年は、現実に浸食されていくだろう。


 それでも、最後の瞬間まで、何を選択してどう戦っていくのか、いつどこにいても必ず、見守り続ける。





 少年は、それからここには来なくなった。





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