short novel

Not To Run Down




「何で、今に限って、私の目の前に現れるのよ」


 『頼んでもいつも来ないくせに』という言葉は、彼女は心の中だけで呟く。



「君に必要だから」


 本音を言っても正論が返ってくる。彼女はそのことに少し安堵した。



「私が必要な時にはいつもいないじゃない。倒れている時に見に来られるのは嫌なんだけれど」

「俺は、君に必要な時だけいればいい」

「私が言っている『私』とあなたが言っている『君』は同一人物のはずなんだけれど」

「あぁ、そうだよ。君が必要だと思い込んでいるのと、本当に必要なのはまた違うだろ」


 皮肉にも正論が返ってくるので、彼女は諦めた。





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