short novel

Not To Run Down




「気がついた?」


 それは彼女の現状とはあまりにも合わない、男性としては高めの声だった。だからといって、幼いというわけではなさそうだ。

 彼女が動かせる範囲で視界を動かすと、誰の姿も映らない。ただ月以外の白い光が見える。


「いつからいたの?」


 彼女は危機感は抱かなかった。違和感を少しも感じなかった。

 彼の声は初めて聞くはずのものなのに、懐かしい感じがしている。



「ずっとだよ。後にも先にも」


 そう言って姿を現した声の主は、真っ白の服を着て、真っ白の光を纏っていた。その異様な姿を見ても、彼女は驚くことはなかった。

 後から思えば、なぜ突然現れ、なぜ白い光を放っているのか不思議で仕方ないはずなのに。



「そう。じゃあ私、どのくらいここに倒れていたのかしら」

「そんなの大した意味を持たない」


 そう言って、彼は彼女がなるべく楽に視界に捉えられるように移動して腰を下ろす。


「まさか、時間が止まってるとか、ここは現実じゃないとか言わないでしょうね?」

「まさか」


 いかにも最近のこの年頃の男が陥りそうな妄想を口にすると、彼は首を横に振った。

 彼の行動が表していることは、そう、彼は今現在、真剣そのものということだ。

 彼女は暗闇で顔をしかめる。


「こういう時はね、のって空気を軽くしないとモテないわよ」

「君がそれを望むとでも?」


 適当なことを言うと、正論が返ってくる。一番今相手にしたくないタイプだ。彼女はまだ体を起こせない自分にさらに苛立ちを募らせる。




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