short novel

擬似的な私





「私の事についてよくご存じね。『その人』にぜひ会ってみたいわ」

「もう会ってるじゃないですか。なぜ私がここまで誰かのことを分かって、偉そうにあなたに言えると?」

「……嘘をついたの?」


 私は『その人』の顔をまじまじと見つめる。


「僕も嘘は嫌いだからつかない。誰か他の人なんて言いましたか?」



 私は何か抗議しようとしたが、代わりにつけようとしたリミッターが遠くへ飛ばされた。圧迫感がなくなる。視界が明るくなる。世界の色が変わる。全てのものが輝きはじめる。





 その時、やっと私は本当の自分の『芯』に出会った。






「あなたに会えて本当に良かった!」


 視界が細まって、まつ毛の影が揺れた。


「やっとお会いできましたね」



 全てを分かっている彼の目は透明だけれどさっきとは違う色だった。


「またお話しましょう。あなたのお話を今度は聞きたいわ」



 その人は笑ってくれた。きっと私も同じような顔をしているはずだ。今私たちは、同じ世界に同じ自分でいるのだから。


「今度はあなたの小説を読ませてください」



 私は視界が変わらないまま、コーヒーを少し飲んだ。一気飲みはできなかった。いつもと違って、まだコーヒーはあたたかさを残していたから。





擬似的な私
どんなものでも存在は覆せない




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