真実を探す男 「同じ世界に全く違う物が存在する。しかし同じ世界であることに変わりはない。君はそのことを伝えたかったんだろう?」 私は答えなかったが、彼にはそれで十分だろう。 「……それで?私が知っている真実にはたどり着いたのかしら?」 私は目をそらしていたが、彼が私の方を見ているのは分かった。顔を思いっきり背けようとする前に、彼に見透かされていたのか何なのか手を強く握られた。 びっくりして顔を上げると、彼の優しげな目が見えた。 そのまま視線を固定してしまった。全く、いつからそんな目を私に向けるようになったのよ。 「どこでもいつでもある真実とは、『存在』というものだ」 彼は囚われていた疑問から解放されたようだった。表情がやわらかい。 そのことに気づくと、安心したような寂しい感覚うに囚われた。 そう、真実を見つけた彼は、もうこの場所を旅立ってしまうのだ。 いつ手が離されるかびくびくしていると、彼のもう片方の手が私の頭の上にのった。 「こんなことに気づくために、辛い思いをさせて悪かった」 「……別に……」 その先に言葉は続かなかった。代わりに目から水が出てきて、意味の分からない母音が続く。 そのまま座り込んでしまう前に手を引っ張られて、気がつくとやわらかな壁に包まれていた。 prev/next |