short novel

真実を探す男




「あなたは探している間も急いでいるから、真実を探しに行かなくちゃいけなくなるのよ」

「……何を言っている」

「あなたは真実はどこにでもあると言った。そうだとすれば、いつでもあなたの傍にあると考えられるでしょ」

「……」



 男は何も言わない。代わりに自分から私の手をもう一度とった。



「急がせて悪かった。君のペースで行ってくれ」

「私は急いでなんていないんだから気にする必要はないわ」

「そうだな」


 ビルのほうへ向き直りながら言うと、後ろから鼻で笑う音がした。





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