short novel

真実を探す男




「着いたわよ」


 私がビルの前で立ち止まると、彼は驚いたようだった。後ろに引っ張られたので、私は動かないままでいた。


「……ここに連れてきたかったのか?」

「そうよ」


 このビルには見覚えがあるらしい。それもそのはず。ピンク色のお花畑の中で、このビルだけが灰色で異質なのだから。



「なぜ遠回りをしたんだ」

「聞いている立場なのに、ずいぶんと威圧的ね」

「急いでいると最初に言ったはずだ」

「何で急いでいたんだっけ?真実を探していたったからよね」

「そうだ」


 彼は『分かっているくせになぜ急がなかった』と責めるように、私の手をふりほどいた。





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