short novel

紫妃





『紫妃の夫になりたい』


 初めて紫妃がこの言葉を聞いた時には、男に容赦なく攻撃の雨を降らせた。しかしそれでも、男は耐え抜いた。しかも男と紫妃の周りにいる下級の妖を消しながら。


 その姿を見て人間にしてはやると興味を持って、見逃した。



 それがはじまりだった。


 それから男は毎晩自分を呼び出した。

 はじめは何を言うにも侮蔑したとげとげしい感じであった紫妃だったが、それは日を追うごとに薄れていった。


 今ではまるで、同じ種族であるかのように会話をしている。





「もしも――」



 それから何日か経った明け方のこと、紫妃は褐色の体が半分以上崩れている妖を消しながら、いつの間にか自分でも驚愕するような言葉を言っていた。





「そなたが死ぬまで私を毎晩呼び出し続けたら、考えてやってもよい」



 その時は、なぜ毎日大きな犠牲を払ってまで
私に会いたがるのか聞こう。


 口には出さなかったが、紫妃はそう思いながら男の反応を見ていた。




 今まで切羽詰まったような死んだ顔しか見せなかった男は、まるで別人のように表情を変えた。


 紫妃でさえも一瞬目をそらしたくなるほど眩しかった。



「そろそろ太陽が昇る。私は行かなくては」


 慌ててそう言って何もかもを曖昧にして、紫妃は人間界から去った。



紫妃
その願望は必ずはじまる未来の物語




3/4

prev/next



- ナノ -