short novel

紫妃




「会いたかった」


 いつも通りの第一声も、この決まりきった第一声が呼び出されて紫妃が現れてからしばらく経ってからしか発せられないのもいつもと同じだった。


「ここまでして会いたいのならば、今すぐ私の元へ来ればいいものを。そなたほどの力の持ち主ならば、可愛がってやろう」


 紫妃は呆れたように微笑して昨日と同じ台詞を口にした。しかしそこにも見たことのない優雅さがあった。


「そんなの死んでからもできるだろう」


 男は病的に見える外見からは想像できないほどしっかりした声で答えた。



「ただ今は……」



 紫妃は男の言葉を黙って聞いていた。


 その度に紫妃を毎日呼び出せるほどの力を持ってそれでもなお正気を保っていても、この男が狂気に支配されていると感じてしまうのだった。





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