short novel

擬装




「何でそんなこと言うの?あたしはひどい人間だってあなたが一番よく知っているはずよ」


 正しくは『それは思い込み』だけれど。

 ここまで言えば、相手もまた怒り出すだろう。そう思っていたのは、どうやらあたしの間違いのようだった。


「君は本当のことしか言えないだろ」

「……何のこと」


 相手はなぜかにっこりして言った。この笑顔の感じは、非常によくない。この状況で、目を細めて愛しくてしかたないって感じで見られても全く嬉しくなかった。


「だいたい、本当にひどいやつは自分が不利になって利益もない時は自分をひどいと肯定しない」

「うっ……」


 通称『遊び人』としたことが不覚だった。うめき声まで出してしまった。


「……それはあなたの認識が間違ってるだけよ」


 それでも不覚を取り戻すために、あたしは言い返した。これでいつも通りの展開になるはずが、相手はさらに笑っただけだった。





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