short novel

擬装





「……本当は、全部俺が悪いのは分かっているんだ」


 私がこんなことを回想しながら黙ることで相手の怒りを煽っていると、相手がとんでもないことを言いだした。


「違うわ。あなたのせいじゃない」


 だからってあたしのせいでもない。それは思っただけで口にしなかった。

 黙っていられなくなったからといって、余計なことを話していいということにはならない。


「いや、君のことをちゃんと見ていなかった俺が悪かったんだ」

「あたしに怒ってたんじゃないの」


 あたしは何も答えられなくなって、話題をそらした。


「何も言い返さないから、何か理由があるのかと思って」


 こんな面倒な人は珍しい。早く怒りを思い出させなければいけない。さっきまで周りなんて目に入らないくらい怒っていたのだから簡単だろう。





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