short novel

擬装




 嘘なんて1つもついてない。あたしは嘘をつくのが大嫌いだからつくはずがない。


 例えば「あなたじゃなきゃダメなの」と言ったのは、本当。

 でも正しくは「今はあなたじゃなきゃダメなの」っていうの意味で、いつまでもって意味じゃない。『今は』というのを言ってなかっただけだ。



 私のことなんて見てないんだから一時的な恋愛しかならないのに、なぜ男というのは誰もこうも期待してしまうのだろう。





 こんなあたしの気持ちなんて目の前の男にはいつも言わない。みんなあたしを悪者にしたくてしかたがないみたいだから。昨日別れてきたあいつもそうだ。



 どこかのモテることがいいことだと勘違いしている、中途半端にモテる人はこういう時私と対応のしかたが違うのを知っている。


 「そんなつもりはなかったの」とか鼻にかけた甘ったるい声で、いかにも自分は純粋ですって顔をしたがる。そういう人は、残念なことにそんなことをすると悪化させるだけだということを知らない。


 それを知ってるからっていうのもあるけれど、私はそんな自分を庇うためだけの演技はしない。もちろんこんなことには慣れているからっていうのもあるけれど、そんなことをしたくないからってだけ。



 そんなことをしたって、傷がなくなるわけじゃない。



 だったらせめて、元凶を傷つけて忘れてしまえばいい。





1/6

prev/next



- ナノ -