short novel

リラ





 言えるわけがなかった。



 昨日からみんなが口々に飽きもせずに言っている言葉をどれも、僕にはどんなに言おうとしても言えなかった。



「リラちゃんがもう出発するって」


 母さんの声が聞えたけれど無視していた。ドアには鍵の魔法を何重にもかけているから、入ってくることはないだろう。


 そんなの、言われなくても知ってる。だけれど笑顔で見送れる自信なんてない。昨日から一睡もしてないくせに何時間も寝たふりをしているのはそれが理由だった。





 リラに出会ったのは、そんな昔のことではない。それどころかつい最近。1カ月前。でも僕には、一瞬で十分だった。


 外見がかわいいっていうところは同じ年ぐらいの女の子たちと同じ。よく笑って明るいところも同じ。


 ただリラの笑顔も声もキラキラしていて、どんな時でも心が温かくなる。



 だけどリラが『特別』だと知ったのは、つい昨日のことだった。





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