short novel

うたかた



 それは、目に見えるはずのないものだった。


 しかし水の中にいると、はっきりと形があることを教えてくれる。ここには酸素がどのくらい入っているんだろう。それとも、ほとんど二酸化炭素だろうか?



 そんなことを考えている間にも、それは私の気分なんておかまいなしに軽々と水面までいって消えていく。私がどんなにそれを口から出しても、増えることはない。



 練習で慣れている私には、それを長時間やっていても全く苦しいとは思わなかった。


 こんな風に私たちの夢は消えっていってしまったのだと思ってしまう方がよっぽど苦しかった。



「――!!」



 聞きなれた声に、私は水から顔を上げた。



「また潜ってたの?気持ちは分かるけどさ、そこに潜ってたって何も変わらないよ。もう9月中旬なのに、本当にもの好きだよねーー」



 呆れたようにかつての仲間が言う。いや、今だって仲間だけれど。


 制服のスカートを濡らさないように持ってまでも私を迎えに来てくれる友達に悪く思い、私はプールから上がった。



「そりゃ、大会で思うような結果だせなくったってさ、まだこれから先があるでしょ?
どこかケガしたわけじゃないんだから、今はいいところに進学して水泳続けるために、勉強頑張らないと」

「……うん」


 プールから出ると、秋の風が私の体を包んだ。


 友人のその言葉のせいかで、それは一層冷たく寂しく感じる。あまりにも物寂しかったので、私は友達に言い返した。





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