short novel

明日への架け橋




「サンタクロースっているの?」


 夕暮れの雑踏の中、そんな声が聞こえて青年は視線を声のした方に向けた。



 『サンタクロース』か。


 そんな言葉久しぶりに聞いたような気がする。すでにまた1年経っていたのだということに青年はその時やっと気づいた。


 この日を忘れてしまったのは、青年がすでに20歳になってしまったからではない。



 遥か昔、聖夜と呼ばれていたその日は今では忌み嫌われる日になってしまったからだった。


 『聖夜に雪が降ると悪いことが起こる』


 そんな噂までたち、青年のような黒づくめの服を着た防衛員以外は外を出歩くことすらしない。



 十数年前の聖夜、雪の降る日に始まった戦争は今年も終わることはなかった。


 それどころか、毎年聖夜を迎えるにつれて激しさを増していくようでもあった。


 青年がいる広場の真ん中に立つヤドリギの木も、今は見回りの目印だったり隠れるためだけの場所になってしまった。



 戦争を黙って見ているだけなのが嫌で防衛員になって数年。青年は時が経つのも忘れるほど、追い詰められているだけだった。



 夜から逃げるように家路につく子供たちを目で追いながら、青年は自分の無力さをかみしめていた。


 今年もあの子供たちは何かを期待して、靴下をさげるのだろうか。


 そんなことを心配したところで、自分にはお金も何もあげられない。彼らの明日を約束することさえもできないのだから。



「どうか彼らにだけでもいいからプレゼントをあげてよ」


 いつの間にか口に出していて、青年は苦笑した。その間にその言葉は、白い息に変わって灰色の空に消えていった。



 今日無事に任務を終えられたら、靴下をかけてから寝よう。きっと明日の朝には目には見えなくても何かが入っているだろうから。



 青年は子供たちの未来を願いながら、そう決めた。



 今年はもらう側じゃなくてあげる側になったらしい。一気に歳をとった気分になったことに苦笑した。



 そんなことを考えながら青年は両足に感覚がなくなっていたことに気づいて、足を軽く動かした。



明日への架け橋
こんな日でも明日の夢を見ることをプレゼントとして贈るよ




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