short novel

きいていて




 突風が吹き荒れていた。



 私は何も持っていないのに、強風はさらに私の全てを持っていこうとする。



 周りの青々とした草原の草は、水のように流されていてまるで緑の川のようだった。同じように私の髪がどんなに流されても、それでも頭の花の髪飾りは取れなかった。


 白い膝丈のワンピースが風を吸い込んでは吐き出す前に、次の風に容赦なく浸食されていく。



 遠くで獣の唸り声がしたが、空に不安の色をした雲がかかって視界が悪くて何の声なのか分からない。



 だんだんと風は強くなっている感じはではない。


 だけれど、何かが0コンマ何秒かのスピードで近づいてきているのが分かった。



 それが何なのかは分からなかったが、風に揺れる背の高い草が急にゆっくりと流れ始めた。



 鼓動が早くなる。息が苦しくなる。胸が何かどす黒い重いものに支配される。座りこみたくなる衝動を抑えた。



 逃げなければ!



 ……いや、違う。私は待っていなければならない。



 今までは見届けるためだけだったけれど、今はもう、違う。


 ここに、この場所に、この時間に、ただ私の存在を残すことが目的ではなくなった。



「あなたの一番をちょうだい!!」



 突風の轟音の中叫ぶ。まだだ。まだ終わってない。



 この音は炎の燃えている音と同じことを、彼女はまだ覚えているだろうか。



 返事を聞く間も惜しんで、突風にかき消される前に、残響として空気に流される前に、何度も叫んだ。



 そう、私は彼女に未来をもらわなければ。ここにはまだ、私がいることを知らせなければならない。



 未来の分かれ目にいる彼女に、まだ何もなくなっていないことを知らせなければ。





 それだけが私の存在理由。





 焦燥の嵐が近づいている。涙の雨が降り出す。どこかで切なさと悲しみを含んだ、長い遠吠えが聞こえる。



 彼女の涙か私の涙かは分からない雨が私の頬を伝った。




 時間がない。けれど、それでも私は、伝えなければならない。



 生きてほしいと願っている人々が未来にもいることを、彼女が私がまだ生きることを願っていることを。





きいていて
私たちがともに未来を生きるために





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