short novel

星になれ






 生前、彼は星になりたいと言っていた。




 車にひかれそうな女の子を助けるために自分がひかれちゃうなんて、あいかわらずいくつになってもお人よしな奴。



 当時は周りの人は彼をほめたたえたが、数カ月経った今では彼が最初からいなかったような扱いだ。



 ……無理もないけれど。彼はもう、ここにはいないのだから。戻ってくることもなければ、もう一度存在することだってありえないのだから。





 けれども私の中では、その時で時間が止まっていて、今日もまた暗くなるのを待って彼と子供のころよく来ていた公園に来た。



 そういえば、すべり台の下が砂場になっているこの場所は彼のお気に入りの場所だった。


 理由はついこの前教えてくれた。すべり台からおりてすぐ他の場所で遊べるから。いかにも彼らしい理由だと笑ったけ。そしたら彼がすこしすねて……。



 今私はその場所に来て、ロケット花火を1つ置いた。


 最近の日課のはずなのに、今日も思った以上に心が揺らいだ。



「……よし」


 やっと心を決めても、やっぱり手は震えていて、それでも何とか点火した。



 ――ヒューーッ……。



 かわいた音をたてて、火の柱が空に飛んでいく。視界がかすむ。


 これに乗って彼のいる空に行けるなんて思わないけれど、せめてちゃんと見届けようって決めたのに。



 ロケット花火が小さな欠片になって消えてしまうのはあっという間で、それが彼の生き様に重なってさらに視界がにじんでいく。



 あなたの光は花火のように消えてしまっても、確かに小さく欠片になってたくさんの人たちの心に残っているから。



 私は花火が消えた先をいつまでも見ていた。





星になれ
星になろうとしすぎて花火になってしまった彼だけれど、流れ星のように落ちることはない



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