short novel

sunset





 最初は気のせいだと思った。


 だって、まさか、こんな見つかりづらいところにいるのに誰かに見つけてもらえるなんて思ってもみなかったから。



「大丈夫?」


 頭にのっているものよりも、優しくそっと触れるような声。


 聞き覚えのある男子の声に、それがやっと気のせいじゃないことに気づいて、びっくりして涙が止まった。私はそっと顔をあげてみた。



「……柴崎君?」


 そこにはクラスメイトの男子がいて、私の頭に手を伸ばしていた。そうすると私の頭の上にのっているのは、おそらく彼の手だろう。



「……何でここにいるの?」

「ずっと泣いているから。最初は声をかけるつもりはなかったんだけれどね」


 そんなことを言いながら、彼は優しく私の頭をなでる。


「やめて。優しくされたらまた泣いちゃ……」


 最後まで言う前に、私の目からはまた涙があふれてくる。あわてて私は目を手でおさえる。せっかく止まったのに。柴崎君は優しいんだか意地悪だか分からない。


「止めないほうがいいよ。止めてると余計苦しくなるから」

「何でそんなこと分かるの?」


 私が精いっぱい強がって言うと、柴崎君は私の頭をぽんぽんとなでて、また笑って言った。



「俺もそうだったから」


 その一言は何だか重くて、私は言葉につまったけれど、何とか涙を止めたまま答えた。


「でも……こんなところ見られたくない」

「そんなに悲しいのに、俺のことなんて気にしないでよ」


 柴崎君は笑って、『まったく本当にかわいい』なんて続けた。何だかその言葉に安心して、涙が流れた。



 止められないんじゃなくって、止まらない。





2/4

prev/next



- ナノ -