short novel

Iris




「香織と私の仲を悪く言うクラスの人達がいるの」

「うん」


 彩花に言われるまでもなく、それは私も知っていた。


 私にはよく分からないのだが、派手な私と地味な彩花は他人から見ると、どうやら合わなくて変なように見えるらしい。


 聞いた話や直接言われたことを総合すると、そういうことになる。


 だけど、私は知らないふりをしていた。


 彩花も知らないふりをしていたからもあるけれど、私がそのままでいいって教えてくれたのは、彩花だから。なのに、彩花に関係あることで自分を偽ることなんてしたくなかった。


「だから、賭けをしてたの」

「……賭け!?!?」


 あまりにも彩花に合わない言葉が出てきたので、私は自分の耳を疑った。


「そう、賭け。香織は私と私以外の友達のどっちを信頼しているか。もし私が転校するって話を信じたら私の勝ちで、もし信じなかったら私の負け」

「……でも、そんなのって……賭けにならないよ! いきなりそんなこと言われたら、誰にだって本人に確かめたくなっちゃうし……」

「本当に? すぐにでも? しかもそんな必死になって?」

「うっ……」


 私は言葉につまって何も言えなかった。


「少なくとも、香織が私のことをどう思っているかはあっちも分かったんじゃないの?」


 彩花はまた何がおかしいのか、クスクス笑いだした。


 ……私はまだ正直、いろいろ展開が早すぎて飲み込めない。


「……でも、ここまで必死になって来るとは思わなかった。ありがとね、香織」



 私にはまだ納得いかないこともあったし、私に何の相談もせずに私をだますようなことを許していなかったけれど、彩花のその笑顔を見てどうでもよくなった。


 初めて会った時から分かっていたが、彼女の笑みは梅雨空さえ明るくできるほどのパワーを持っているから。





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