short novel

うさぎシンドローム





 私たちがさっき嘘の雨宿りしていたお店で、葉月は大きな紙袋を持ってすぐに出てきた。


 誰かのプレゼントなのか、ラッピングの赤いリボンが紙袋からはみだしていた。


 中身も相手も聞かなかったけれど、プレゼントをそんな簡単に決めていいのか聞いたら、葉月はとっても幸せそうにうなずいていた。





「はぁ……」


 私は一息ついて、自分の部屋に入った。今日も葉月を悲しませないですんだ。


 葉月のあんな幸せそうな笑顔を見られたなら、あのショーウィンドウに並んでいたかわいいうさぎのぬいぐるみが明日消えていても、何も後悔しない。





 ……だけれど、親友に嘘をついているなんてやっぱり後ろめたい。



 そんな私を部屋の中一面に並べられた目が見ている。



 後ろめたいのは嘘をついているからだけではない。私の部屋中は、葉月が嫌いなうさぎのぬいぐるみでいっぱいだから。



 私も葉月と同じく、小さいころからうさぎが好きだった。葉月に悲しいことがあってからもずっと好きなのだ。



 葉月の悲しい顔を思い出すからもう買わないと買うたびに思うのだが、ついついかわいいぬいぐるみをみつけると買ってしまう。





「また届いたわよ」



 開けっ放しにしたドアの向こうから、お母さんの声が聞こえた。


「うわっ!いるならいるって言ってよ!」

「そこに立ってるからいけないんでしょ?」


 びっくりしている私を置いて、お母さんは立ち去ってしまった。



 後ろを振り向くと、置きっぱなしのものがもう一つ。


「今年も来たんだ……」



 足元の大きなダンボールを見ながら、私はつぶやいた





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