short novel

うさぎシンドローム





 私たちがまだ小学生の時、飼育委員だった葉月に悲劇が訪れる。




 ずっと大好きで世話をしていたうさぎに、えさをあげているときにかまれたのだ。





 その時の葉月の落ち込みようといったら……。何年経った今でも思い出したくない。



 それから葉月のそんなところを見たくなくて、私はもう二度と葉月の前でうさぎの話をしなかった。


 それだけでなく、葉月の近くでうさぎの話が出たり、聞こえたりしたらすぐに逃げるようにしている。



 ……そう、さっきみたいにね。



「もう、いきなり何なの!」


 少し息を切らしながらそう聞く葉月は、怒っているというわけではなく不思議がっているという感じだった。


 葉月はこんなことくらいでは怒らない性格だけれど、もうこんな変な私に慣れてしまったのか、適当なことを言う私に飽き飽きしているのかもしれない。



「……ほら、雨降ってたから」

「雨……?」


 葉月は雲ひとつない青空を見上げた。このままじゃ、いくらおっとりしている葉月も騙されないだろう。


「……天気雨だったんだよ。もう止んだから行こう!」


 私は葉月がこれ以上何か言う前に、そう言って歩き出した。



 私が話をそらしたのは、もうひとつ理由がある。


 どんなに隠そうとしても私の本能はうさぎを求めているのか、ショーウィンドウにかわいいうさぎのぬいぐるみが置いてあったから。


 ピンク色で目が大きくてかわいいな……。




 お店にひきよせられそうになるのを、葉月の顔を思い出して、ようやく止める。



「ちょっと待ってて!」


 葉月は私がせっかく苦労してうさぎのぬいぐるみから目をそらしたのに、そう言ってお店の中に入っていってしまった。





 ……やっぱり、言えない。私がアレを好きなんて。



 その後ろ姿を見送りながら、そう思った。




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