short novel

うさぎシンドローム




「あぁーー! やっぱりmio様のバラードは癒されるわ」

「この澄んだ歌声、まさに天使だよね」


 いつもの日課となっている片方の耳のイヤホンで葉月の横を歩きながら相槌を打つ。いつも聞いているのは、もう数年前に引退してしまった歌手だけど、彼女に代る澄んだ声を持つ歌手はまだ現れない。


 そういえば、mioが引退してしまった時は二人で何日も大泣きしたっけ。


「でね、学校で飼ってるんだけどね……」

「あぁ、小さくて長い耳がかわいいよね」



 しかしそんな大好きな歌手の声も、後ろの小学生の女の子たちの声でかき消されてしまう。



 恐る恐る隣を歩く葉月の方を見てみれば、葉月はまだmioの声に心を奪われているようだ。



よかった。でも、いつ気づくか分からない。今のうちだ。





「葉月、走って!」

「ちょっと、何?」


 びっくりしている葉月に構わず、私は走り出した。





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