僕と魔王と新学期 「『拝啓 大橋浩平様 私の正体が知りたければ、放課後になる前に体育館裏に来なさい。 2−6の魔王 追伸 魔法はすでにかけられた。 君たちにはどれが私のかけた魔法か見つけることができるかな』」 大橋君が読み上げると、クラスの中はざわざわと波のようにひそひそ話が広がった。それはどれもとても小さな声なのに、どんな大声よりもうるさく聞こえた。 「それで、魔王の正体は分かったのか?」 先生がその声を突っ切って聞くと、大橋君は首を横に振った。 「魔王はいませんでした。代わりにこの手紙が置いてありました」 大橋君はそう言って、それも読み上げた。 「『拝啓 大橋浩平様 この手紙と一緒に置いてあるものを、江本孝太郎に渡しなさい。 その時、自分はもちろん、誰にも手紙の中を見せないように。 誰かに見せた場合、私が魔法でその人を消してあげよう。 2−6の魔王』」 全く嬉しくない情報と共に、僕の手に封筒が渡される。 「江本、その封筒の中身を先生に見せなさい」 僕は魔王も魔王が言っている魔法も怖かったけれど、その時は先生も怖かった。近づいている先生に何もできないまま見ていると、視線を感じて後ろを振り返った。 そこにはそれどころじゃなかったから忘れていただけで、後ろの席の大橋君が僕を見ていた。僕と目が合うと大橋君はにっこり笑った。それはいつもの軽い感じでも楽しそうな感じでもなく、何だか、あたたかい感じのものだった。 それを見たら、急に僕は自分が本当に怖がっていたものが何だったのか分かったような気がして、大橋君から目をそらして前を見た。 prev/next |