僕と魔王と新学期 『2年6組、江本孝太郎様。2年6組までお戻りください』 僕がどこへ向かっているのかはもちろん、何を考えているのか分からないでいると、急に頭上のスピーカーから女子生徒の声でそんなことを言っているのが聞こえた。それを聞いて僕は目の前でクラッカーを鳴らされた気分になった。 『繰り返します……』 繰り返すな!!もう分かったから!ちゃんと戻るから! 僕は放送室と教室どちらへ戻ろうか迷ったけれど、とりあえず教室に戻ることにした。もしかしたら、大橋君がどこにいるか分かったのかもしれないかもしれない。 「このクラスの、誰が魔王なんだ?知っている者はいないか?」 僕が教室へ戻ってみると、話はけっこう進んでいて先生がみんなを座らせて誰が魔王なのか問い詰めているところだった。 大橋君はといえば、僕の後ろの席に座っていて、僕にひらひら軽く小さく手をふってくれた。見たところ元気そうだから、魔王に魔法をかけられたとかそういうわけではなさそうだ。あるいはかけられたとしても、そんな危険なものではなかったのだろう。 僕が大橋君が無事で安心しているのと、魔王の魔法をまだゲームのようなすごいものだと考えていた自分が恥ずかしくなった。そんな気持ちのまま席に座ろうとすると、先生が僕に言った。 「江本、先生はもちろん、このクラスのみんなも君の味方だ。誰にイジメられているのか教えてくれないか?」 先生に話しかけられて、僕はようやくみんなに見つめられていることに気づいた。とたんに何だか座れなくなって、僕は床の木のもようを見つめていた。 先生は間違っている。だいたい僕は、魔王にイジメられてなんていない。魔王は意味不明な手紙を出しているだけで、僕にまだ直接的な被害を与えているわけではない。 それに、仮に魔王じゃなくても誰かにイジメられていたとしたら、僕が先生に言ったと分かる状況で言えるわけがない。 「僕、魔王に心当たりがないんですが……」 僕がそんなことを考えながら弱々しく言っても、先生はやっぱり納得しなかったみたいで、何か言おうとした。でもその前に、僕の後ろからいつもの明るい声が聞こえた。 「江本君は、イジメられているわけではないと思いますよ。彼に聞いてみたら、今のところ魔王からは手紙を入れられているしかないそうです。魔王は江本君をイジメているというより、遊んでいるように見えます」 「それは一歩間違えればイジメになるんじゃないかね?」 「先生も魔王からの手紙を読んでくだされば分かると思いますが、魔王は江本君に自分のことを見つけてほしいんだと思います。僕にもこんな手紙を渡したくらいですし」 僕が何も言えないまま、僕のことで話が進んでいるのを聞いていると、急に大橋君が僕のことではないことを言った。 僕はやっと金縛りから解けたみたいに大塚君の方を見てみると、真っ白な封筒が彼の手に握られていた。中身はすでに封筒の外に出ていて、大橋君は手紙に書かれていることを読み上げた。 prev/next |