short novel

僕と魔王と新学期




「……そうです」


 仕方なく僕がうなずくと、先生の顔が険しくなった。


「誰だ。そんないたずらをする奴は。早く止めさせなくては。江本、心当たりはないのか?」

「……はい」


 先生の視線が怖くて、僕はうなずくことしかできなかった。しかし慌てて思い直して、先生に言った。


「それよりも、今は大橋君を探す方が先なんじゃないですか?」

「そうだな」


 先生は思い直したようで、僕らを見て何か言おうとした。

 しかしそこで、また別の男子の声が聞こえた。


 それはあまり大きな声ではなかったけれど、先生の言葉を待っている僕らにはとてもよく聞こえた。


『やっと魔王が魔法かけてくれておもしろくしてうれたんだから、探さないで見てようぜ』


 その男子が何を言っていたのか、しばらく頭の中で変換できなかった。でも全て変換できる前に、僕は何かを叫んでいた。

 やっぱりそれも、僕の耳に届いてからちゃんと言葉になるまでに、すでに取り返しのつかないことになっていた。



『クラスメイト一人がどこにいるか分からないのにそんなこと言うなんて、魔王より最低だ!』



 あれ?僕、さっき何て言ったんだろう?そう考える前に、みんなの視線が怖くて、僕は教室から逃げ出した。


 そして必死に大橋君を探す。いや、大橋君を探していたというよりも、ただ走っていただけかもしれない。


 頭の中は大橋君を探すということよりも、何であんなことを言ったのかということで頭がいっぱいだったから。


 よく考えてみれば、何て馬鹿なことを言ったんだろう。

 大橋君は魔王に魔法をかけられたなんて決まったわけではないし、そもそも魔王なんて僕のクラスの人間なのだから、魔法なんて名前だけのたいしたことのないものなのに、何であんなことを言ってしまったのだろう。


 自分のことだとは言え、魔王のことに怯えている自分がいるにしても、言い過ぎたような気がした。



 だけれど、やっぱり、僕だったらまだしも、クラスや僕なんかのために頑張っている大橋君をあんなふうに軽んじるなんて許せなかった。

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