short novel

僕と魔王と新学期





 その日の夕方、事件は起こった。


 授業が全て終わって、もう帰ろうとカバンに教科書をちょうどつめて準備をしていた時のことだった。


「大橋はいないか?」


 先生の声後ろからして、僕は振り向いた。


「大橋君ですか?」


 ゆっくりと記憶をたどっていく。確か、大橋君を最後に見たのは、というか彼の声を最後に聞いたのは、授業中で先生にあてられていた時だ。それからはそういえば、聞いていない。


「大橋君、いないんですか?」


 昼休みの事もあって、何だか嫌な予感が全身を駆け抜けた。


「困ったな。誰か大橋を知っている者はいるか?」


 先生が大きな声を出して聞くと、クラスのみんながこちらを向いた。しかし、先生の声に答える人は誰もいない。


「魔王じゃないか?」


 沈黙の中で、そんな小さな声が聞こえた。


「魔王……?」


 その小さな声は先生にも聞こえたようで、先生が聞き返した。その声に、近くにいた男子が答えた。


「魔王ですよ。江本に今日魔王と名乗る変な奴から、姫を守るためだかそんな理由でクラスに魔法をかけるなんて手紙が来たんです」

「本当か、江本?」


 話を振られて、僕は顔を上げた。あいつ、僕の名前まで出さなくていいじゃないか。これで、逃げられなくなってしまった。

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