short novel

僕と魔王と新学期




「何かあったのか?」


 僕がそんな大塚君に何か言おうとする前に、教室のドアが開いて先生が入ってきた。


 マズイ! 僕のクラスの担任の先生は、怒ると怖くて面倒だと先輩の間でも有名な中年の男の先生で、眉間にしわをよせていた。


「今度のスポーツ大会の練習について話していたんです」


 誰かが何か言う前に、大橋君の声が後ろから聞こえた。その声から、大橋君はこれまでのいい人そうな大橋君に戻ってしまったようだ。

 先生はその言葉にも姿にも何の疑問も抱かないみたいで、『そうか』なんて言って納得してしまったように笑っていた。



 それから何事もなかったかのように授業が始まって、何事もないまま休み時間を迎えた。魔王が何をするのかびくびくしている当事者の僕さえも嘘のように、そのまま何事もなく次の授業がはじまった。



 そんなことを繰り返しているうちに、もう昼休みになっていた。



「やっぱり魔王なんていなかったんじゃねぇの?」


 僕は誰にも話しかけられたくなくて、自分の席に座って本を読んでいるふりをしていた。


 すると、後ろの席から男子のそんな声が聞こえた。僕に話しかけているという感じではなく、誰かに話しているといった感じだ。

 それもそのはず。僕の名前は、魔王と名乗る人物から手紙が来たと同時にみんなに知ったけれど、だからって僕が人に話しかけるのが苦手で、他人からしても話しかけにくい人のことに変わりはないから。


 声の近さから、名前も分からない男子が話しかけている相手は、後ろの席の大橋君かもしれない。



「それが一番いいんだけれどね」


 それよりも大橋君が何て答えるのが気になって耳をすましていると、大橋君がそう言った。

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