short novel

僕と魔王と新学期





 魔王を怖がっているのか、大塚君を怖がっているのか、それとも別の何かを怖がっているのか。


 それさえも分からないのに、僕はずっと後ろから何かに追いかけられているような気がした。


 それでも後ろを振り向けないまま、僕は教室までついた。教室の中にさっきまで僕を追いかけていた怖いものがいるような気がして、僕はドアの音をたてないように開けた。


 僕が恐る恐るドアの陰から教室をのぞいてみると、誰も僕の方を見ている人はいなかった。

 ドアをなるべく音をたてないように開けたからか、それとも最初から誰も僕のことなんて気にかけてないのか。

 何が理由にしても、クラスの人のその反応を見て、何もかも元通りになるような気がして、自分の席についた。


 ……そんな簡単なことのわけがないと知るのに、それからそんなに時間はかからなかった。



 それは、教科書を机の中に入れようと、机の中を見たその時だった。


 僕は、机の中にまた見たことがあるけれど、あまり見たくないものがあるのを発見した。今度は誰にも見られないように急いでポケットに入れて、トイレへと急ぐ。


 トイレの個室に入ってから、ポケットの中からそれを取り出した。昨日の封筒と同じように、表も裏も真っ白。封もしていなくて、中に手紙が入っているところまでが同じだった。


 僕は開けるのが怖い気持ちもあったけれど、このまま開けないままでいる方が怖い気がして、半分に折ってある手紙をゆっくりと開いた。


『拝啓 江本孝太郎様。
姫をこれ以上悲しませないために、今日2−6に魔法をかける。
君に解くことができるかな。
2−6の魔王』


 今度こそラブレターだと救いを求めるように願って開いたのは報われなかったみたいで、また魔王からのものだった。

 僕は姫を悲しませるようなことをしたみたいだけれど、断言する。僕は昨日の魔王の手紙を発見してから、クラスの女子とは話していない。じゃあ、『姫』とはクラスの人ではないのかもしれない。


 それよりも、『魔法』という言葉の方が気になる。昨日大橋君は、魔王はゲームに出てくるような魔法を使うような恐ろしいものではないと言っていたけれど……。何を『魔法』といっているのか考えると怖い。


 ただ単に、僕を困らせようとしてふざけているだけだ!だけれど、僕のせいでクラスで何か起こっているのかもしれない。


 そう思ったら、いてもたってもいられなくなって、僕はトイレから飛び出して教室へ急いだ。

10/26

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