short novel

僕と魔王と新学期





「ちゃんと着がえられるなら、もっと早く来れば全部食べられたのに」


 大橋君はそんなことを言いながら、僕の隣を歩く。今日は少し風が強かった。そういえば、昨日の夜天気予報で今日は風が強くなるって言っていたかもしれない。



 少しも悪びれない犯人は、僕の朝食の目玉焼きを横取りした。被害者でもある僕も目玉焼きを作り直してもらったから、そこまで責める気にはならない。

 母さんは目玉焼きでなく、サラダとさらにトーストまで大橋君にあげようとしたけれど、大橋君は意外にも断った。


 家はどこだか分からないけれど、今朝は僕をわざわざ迎えに来てくれた。軽い人に見えそうだが、……本当はよく分からない。


「今日の数学あてられそうだな」


 そして昨日の家まで送って行ってもらった時のように、一人でクラスのこととか授業のこととか、先生とか学校のことを話し出した。

 一人で勝手に話しているくせに僕の反応は気になるみたいで、ずっとこっちを見ながら話している。勝手に話したいなら、僕のことなんて気にしなければいいのに。


「江本はマジメだから、あてられないと思ってあてられるかもなんて全然考えてないんだろ?」


 僕が何の反応もしないのを見て、大橋君が言った。


「考えてるよ!ただ、それよりも……」


 余計なことを言ってしまった。なんて思った時にはもちろん遅くて……。


「それよりも何が気になるんだ?あっ、好きな女の子とか?昨日の手紙で姫とか書いてあったもんな」

「違う!」


 ここまで言われたら、バカにされても正直に話すしかない。

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