short novel

僕と魔王と新学期




 僕は振り向くと、そこには一人のこの学校指定の制服を着ていた男子生徒が立っていた。


 いつからいたのだろう。全然気がつかなかった。学年章が青だから同じ学年だけれど……。誰だろう。名前はもちろん顔も初めて見るような気がする。だけれど、僕の名前と顔を知っているということは、新しく同じクラスになった人だろうか。


 僕がそんなことを考えながら、誰だか覚えていないので何を言っていいか分からないままいると、相手はそんな僕を見透かしたように口を開いてこんなことを言った。



「同じクラスの後ろの席の、大橋浩平。まだそんなに新しいクラスにいなってから時間経ってないけどさ、もう何日も経ってるのに後ろの席の俺の事も覚えてないなんてな」



 あっ、確か、そんな名前の人がクラスにいた。顔を覚えていないのに名前だけしかも漢字でちゃんと頭の中に浮かぶのは、彼がクラス委員長に決まって名前を度々黒板に書いていたからだった。


「でも江本はいつもどこか現実じゃない遠い世界にいそうだから、そうだろうとは思ったけれど」


 大橋君が僕についていろいろ言っているのを聞き流しながら、僕はまた新しいニュースを見つけた。僕は良いニュースから聞く派だから、ここでも良いニュースから話すことにする。

 良いニュース、僕の名前を覚えていてくれたのは魔王の他にもう一人いた。

 悪いニュース、でもその人は、僕の苦手なタイプだ。話したことはなかったが、話しかけられただけで分かった。気さくでフレンドリーだけれど、物事を軽くしか考えてないような気がする。


「ずいぶん楽しそうなこと手紙持ってるな」


 どうやって大橋君と別れようか考えていると、ふいにそんなことを言われた。


 大橋君の目線の先にあるものを見てみれば、僕はまだ『魔王』からの手紙を開いたままだったことに気づいた。慌てて手紙を封筒にしまおうとしたが、大橋君が僕の手から手紙を取った方が早かった。

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