short novel

僕と魔王と新学期




「えっ!?」


 入っていた一枚の紙を何度も確認する。何度読んでも間違いではない。そして同時に何も考えられなくなって、その場に立ちつくしていた。



 良いニュースと悪いニュースがあるけれど、どちらから話した方がいいだろうか?どちらから聞く人が多いのだろうか?

 少数派かもしれないけれど、僕は良いニュースから聞く派だから、良いニュースから話すことにする。


 良いニュース、僕はクラスに認知されていた。しかも僕の名前を漢字でフルネーム知ってくれている。内容から見るとたった一人みたいだけれど、それでも新しいクラスになってからまだ数日しか経っていないから嬉しい。


 悪いニュース、僕の名前を覚えてくれている人が誰だかは知らないけれど、その人は、僕のことをとても憎んでいる。しかも殺したいほど。


『拝啓 江本孝太郎様。
あなたは2―6の姫を穢したことにより、近いうちに私と対決しなさい。
2−6の魔王』



 手紙は殺人予告状とも取れる内容だった。ワープロでうったもののようで、特徴がない何のあたたかみもない無機質な文字でそう書かれていた。


 まだクラスの人の名前を、誰もと言っても過言ではないほど覚えていない僕にとっては、姫というのがだれだか分からない。というか今まで生きてきて女子と話したことだって数えられるほどしかないのに、穢したなんてひどい言いがかりだ。

 それなのに身に覚えはないけれど、近いうちに魔王という人物が僕を抹殺する気でいるらしい。


 でも、殺されるのは不思議と怖くなかった。

 殺してくれるなら本望だったかもしれない。僕がこれ以上退屈で何の代わり映えもしない日常を送るのを、終わらせてくれるのだから。


 魔王が姫を守っているというのはゲームの設定ではなかなかないから変な気がしたが、僕が好きそうなこんな非日常な状況を用意してくれたのだから、喜ぶべきなのかもしれない。



「まだこんなところにいるなんて珍しいな、江本」


 喜ぶべきなのかもしれないが内容が内容なので喜べずにいると、後ろから至近距離で声がした。

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