short novel

赤い糸





 それにしても……。


 相原君にまで赤い糸が出てるとは思わなかった。将来はお医者さんになるらしくて勉強ばっかりしてるから、女子には全く興味ないと思ってたのに。


「……ありがとう」


 校門を抜けると、私は小さな声で言った。しばらく返事がなかったので、小さい声すぎて聞こえないのかと思ったら、急に相原君は私の腕を離した。


「全く、渡辺はぬけてるよな。もう少しで好きな瀬戸君も友達も失うところだったんだぜ」


 苦笑しながら、相原君は私の名字を呼んだ。


「だって、私なんかに現れるはずないと思ってたんだもん」


 嘘だけじゃなくて言い訳まで下手になってきたみたいで、気がつけば自分でもよく分からないことを言っていた。


 それは、私は相原君に瀬戸君好きなこと言ったっけ?という疑問がわいていたからだった。


 しかしその疑問は、相原君の次の一言で跡形もなく消えてしまった。


「渡辺はさ、魅力あるんだから自信もちなよ」


 相原君はもっと静かな人で、こんな笑うとは思っていなかったからちょっと変な気持ちになった。


 嬉しかったけれど……。私はあんまり喜べなかった。言っている本人が苦笑しながら言ったので、全く説得力はなかったっていうのもあるけれど。



「相原君はさ、誰か好きな人いるの?」


 何か仕返ししたくて聞いてみると、相原君はさっきまで笑っていたのが別人のように顔を真っ赤にさせてうつむいてうなずいた。


「……俺の好きな人は。……他校の人なんだ」


 なるほど。それで噂にならなかったのか。相原君はその相手のことがとっても好きみたいで、私とは目を合わせようともしない。



「だからさ、共同戦線はらない?」

「うん。……って、えっ?」


 相原君は顔を真っ赤にしているだけだったので、私は油断してうなずいてしまった。





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