short novel

赤い糸





「相原君! いつの間に……」


 里香が驚く声で、やっと私は誰が後ろにいるのかを知ることができた。その人は同じクラスなんだけれど、あんまり話さないから声だけで当てろなんてなかなかレベルが高い。


 えっ? 振り向けばいいって?


 耳元で声がすることと、背中の感触とお腹にある腕からそれはできない。


 いくらクラスメイトで、まじめでいい人そうとは言え、さらには背も高くて足も長くてスタイルいいとは言え、年頃の女の子に本人の許可もなしにそんなことを言っていいわけない。


 ということで、里香が驚いている間に私が何か言い返そうとしたら、その前に相原君にささやかれた。


「左手の薬指の本当の相手がばれてもいいの?」


 それは脅しというより、心配している感じで、私は思い直してここは黙っておくことにした。……もちろん、左手の薬指の本当の相手がばれてはいけないということを思い出したからっていうのもあるけれど。



「ほら、証拠」


 私が黙っているのをいいことに、相原君は私の左手を上げてみせた。そして相原君の左手と並べて里香に見せた。


 里香が驚いて目を見開いているので、私も相原君の左手を見てみると、私とよく似た赤い印があった。



「……だって、真奈美瀬戸君が好きなんじゃ……」


 そうですよ!そうですけれど、この印が出ちゃった以上そうとはいくら親友にも言えないでしょ!


「じゃあ、俺たちこれからデートだから!また月曜日にね」



 私の叫びたいこととは全く違うことを言いながら、まじめなはずの相原君は平気で上手くうそをついて、私の手を引いて歩き出した。


 このまま連れて行かれるのはなかなか不本意だったけれど、このまま連れ去ってくれた方が助かるから、相原君に引っ張られるままに私も歩き出した。



 後ろからは里香の声がした気がするけれど、私はもう振り向かなかった。





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