short novel

赤い糸




「少しのどが痛くてさ」


 ちょっとは合唱部で使えそうな嘘をついてみる。もちろん、なかなか声が出ないという演技も一緒に。


「そういえば、夕方からなんか元気なかったもんね」


 里香が納得してくれそうなので、立ち去ろうとしたところ、また声をかけられた。


「……左手、どうかしたの?」


 ずっと抑えていた左手をさっと隠しながら、私は答えた。


「……紙で、切っちゃって」


 隠している場所が場所なので、最近そのことについてかなり気が立っている女子にはそんなことではごまかせないだろう。


「まさかその傷って、赤くてリボンがついた指輪みたいな形じゃないでしょうね?」


 ……風が一気に冷たくなったような気がした。やっぱりごまかしきれなかった。


 他の言い訳を考えてみたけれど……。やっぱり上手い言い訳は思いつかなかった。だって、ちゃんと、証はここにあるのだから。


 本当のことを話して親友をなくすことを覚悟を決めたその時、上からまた別の声がした。



「実は秘密にしてたんだけれど、俺たち付き合ってるんだ」



 それはあんまり聞いたことのない、男子のものだった。





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