short novel

赤い糸




 なるべく左手の小指を見せないように、私は逃げるように学校から出ようと廊下を歩き出した。


 現れた時は、私はついに恋の女神様に見捨てられたのかと思った。


でもせめてもの救いは、誰かに気づかれる前に自分に気づいたこと。やっぱり恋の女神様は私を見捨てて何ていないらしい。



 あとは、何とか、土日で決着をつけるしかない。



 そうすれば……。何事もなかったように平穏で楽しい学校生活が送れるはずだ。


 階段を駆け足で降りながら、なるべく冷静にしているつもりなのだが、同じことばかり考えてしまう。


「1!2!1、2、3、4」


 階段を下りて廊下の窓から外を見れば、野球部がお決まりのかけごえをかけながら、ランニングしているところだった。


 サッカー部はいつもグラウンドの奥で練習しているから、ここからでは見えないだろう。


 そう言い聞かせて、足を止めそうになるのを抑える。土日で会えなくなるってこともあるけれど、レアな練習風景を見てみたい。だけれどそれよりも、今は誰にも見られるわけにはいかない。……特に知り合いには。


「真奈美ーー!急いでどうしたの?」


 もう少しで昇降口というところで、遠くから聞いたことある声で横から私の名前を呼ぶ声がした。


「お母さんと買い物に行く約束してるんだ!ごめんね!」


 あまり上手くないウソを、あまり下手につかないように言った。そのまま私は昇降口から外へダッシュする。


 ここまで来れば、誰も見られることはないだろう。みんな部活で忙しい時間だし。



「あれ、真奈美?今日部活じゃなかったけ?」



 気が抜けた瞬間、いつも聞いている声が後ろからして、私は気のせいであってほしいと思いながらも、ゆっくり振り向いた。


 やっぱり恋の女神様は私のことを見捨てるみたいだ。それとも、恋のためなら、友情はあきらめろってことなのかな?



 そこには気のせいではなく、今一番会いたくない、親友の里香がいた。





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