short novel

背中合わせの願い




「僕、やっぱり変だよね」

「別に変じゃないさ。大切な人が傷つくのを放っておける奴の方が変なんだ」


 その言葉は思い通りに届いて蒼斐を守ることはないだろうが、それでも悲しそうな顔をする蒼斐に伝えたくて碧弥は言った。


「……碧弥、今からこっち向かないでくれない?」


 碧弥の言葉は蒼斐に届いたのか碧弥には分からないままだったが、碧弥は蒼斐の言葉に従った。


 しばらくして、碧弥の背中に何かが当たる感じがした。それは蒼斐の背中だと碧弥には言われる前に分かった。



「……そんなんで、お前の気が済むのか?」


 蒼斐がこれから何をしようとしてるのかは分かっているので、蒼斐に背を向けたまま聞いた。


 これからやることを分かっているからこそ、相棒である自分にも見えないようにして、姫様に『その日』まで隠せるはずがないのに隠して、それで蒼斐の気が済むのかちゃんと確認しておきたかった。



「……うん。次はきっと、僕らの力では足りなくなる。そうなる前に、間に合わなくなる前にやっておきたいんだ」


 碧弥はそれを聞くと、なるべく重く聞こえるように聞いた。


「今度は、一振りで犠牲者が数十人じゃすまないかもしれない」

「そしたら、今度こそ僕ら破門だね。でもいいんだ」




 『大切な人を守れるなら』



 姫様には、聞こえているのだろうか。


 聞こえていないはずがない。今が夜で姫様の力が増すこともあるが、彼女は本当は、人を傷つけることで俺たちが傷つくことを守ろうと、自分の力が及ばない昼でさえも、俺たちのことを気にかけているのだから。


 なのに蒼斐を止めないのは優しさからなのだろうか。それとも、碧弥が言葉にできないけれど感じているそれを超えた何かなのだろうか。



 そんなことを考えながら、碧弥は蒼斐の背中に背中を預けた。



 それは蒼斐の言葉にしきれない決心を受け入れたようでもあった。それは碧弥なりの優しさのつもりだった。




 修羅の術の完全版を術式なしで使えるようにするための魔法円を描く音だけが、廊下にこだました。




背中合わせの願い
すれ違う優しさ



fin.

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