short novel

背中合わせの願い







 陽もすっかり落ちた頃、碧弥と蒼斐は真っ赤な布の敷かれた大広間の真ん中で片膝を折っていた。


 二人が敬意を表す相手を見れば、白いヴェールのような布をかぶって顔を隠している真っ白な巫女装束のような服を着ている人物だった。


 顔を隠しているので性別は分からないが、凛とした表情はいくら顔を隠していようと姿勢や動作まで隠すことはできないようだった。


「……なぜ、殺めたのですか?しかも禁じたはずの修羅の術まで使って」


 声はまだ幼さの残る少女のものだったが、口調はゾッとするほど冷ややかだった。彼女こそが、碧弥と蒼斐が畏怖し姫様と呼ぶ、人間離れしてした身にありあまるほどの強大な不思議な力を持った少女だった。


 ちなみに修羅の術とは、攻撃する力を高めることができるもので、蒼斐が昼間碧弥に使った術のことである。それを使った武器は、毒々しい紫色に光り輝くという特徴を持っている。


「姫様もお分かりのはずです。たとえ追い返したところで、今までのようにまた奴らは勢力を大きくしてやって来るでしょう」


 普段と違い、いつもは穏やかな彼の切れ長の目を存分に生かしたようなその声は、蒼斐は何も寄せ付けないかのようだった。


 碧弥はいつも感情に任せて状況を不利にしかしないので、何も言わないことにしている。このことは本人と蒼斐だけの秘密なのだが、姫君も気づいていることだろう。


「それは分かりません。彼らも時間さえあれば、どれほど自分たちが愚かだか気づくはずです。それより前に全可能性をつぶすことは間違っています。それは聡明なそなたなら分かっているはずです」


 実は人間が姫君の力を手に入れようと、あるいは恐れて攻撃をしてきたのはこれがはじめてではなかった。姫君は夕方から夜にかけてしか力を使えないことをどこで聞いたかなぜか知っていて、決まって昼に攻めてくる。


 過去に数えきれないほど攻めて来たが、回数を重ねる度に大群と強力な武器を持って来る。その度に、姫君の弟子の碧弥と蒼斐が追い返していたのだった。


 しかし追い返しただけでは何も変わらず、彼らはこりずに何度も同じことを繰り返す。



 彼らが勢力を大きくする度、碧弥と蒼斐も姫君に与えられた力を使うようになったが、近頃ではそれでも追い返すことさえままならなくなってきていた。





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