short novel

背中合わせの願い




 青年二人が会話している内に、前方の大群はどんどん近づいてくる。


 それでも、碧弥は迷っていた。


 やっとこりたのかもう矢が飛んでくることはなかった。それを吉報ととっていいのか、凶報ととるべきなのか碧弥にも分からなかった。


「僕は大丈夫だよ、碧弥」


 金色に輝きを増す円盤から目を離し、ぶつぶつつぶやいている蒼斐を確認してから、碧弥は覚悟を決めて小型のナイフを両手で握り目を閉じた。


「……分かったよ」


 碧弥がしばらくして小声で答えると、それに呼応するかのように小型の刃物の刃がのびはじめる。碧弥の背丈を越えても止まる気配はなく、さらに天高くのびていく。



 それはなぜか元の刃の色とは異なる、いっそ美しいと思うほどの鮮やかな毒々しい色の紫だった。



 やがて、刃がのびるのが止まると、今まで何も表さなかった芸術品のような表情が嘘のように碧弥が叫んだ。



「はあぁぁ!!」


 碧弥がそう叫んで、刃物を一閃させると、紫色の軌跡を残して台風さえも切り裂いてしまいそうな轟音が鳴り響いた。


「うわあ!」

「ギャーー」


 その軌跡の後には、形にもならない叫び声を残して、何人もの銀の鎧を着た兵士が倒れる。


「はぁ!はぁ!はぁーーっ!」


 碧弥はそれに構わず、どんどん紫色の刃を振りかざす。彼が刃を振るたびに、遠く離れた兵士が何十人も倒れていった。



「碧弥!もう大丈夫だよ!」


 下から蒼斐が叫ぶと、碧弥は宙で一回転して、蒼斐の隣に降り立った。



 蒼斐はそれを見届けると、目で見ていられないほどの輝きが増した金色の円盤を投げて叫ぶのだった。


「金甲守衛盾!!」


 すると、みるみるうちにその金色の円盤は大きさを増し、城壁を囲うほどになったかと思うと、回転をはじめた。その度に、まるで流星のような炎が相手の兵士に向かって巻き散る。


「何!」


 断末魔が響く中で、円盤の外側からは驚いたような人々の声が形になって聞こえる。


「こんなの聞いていないぞ!退却、退却ーー!!」


 遠くでそんな声がしたかと思えば、遠ざかる足音が何重にもこだました。





3/8

prev/next



- ナノ -