short novel

チャペルの見える窓






 それから数日の時が経った。



 ジョウが何日か続く依頼で事務所を留守にしていて、久しぶりに事務所に戻ったある日の朝のことだった。


 いつもは足の踏み場に困るくらい散らかっているはずの事務所が、なぜかとてもきれいに片付いていた。



「……で、何でこいつがここにいるんだ?」


 事務所に戻るなり見たことのある美人な女性を発見して、彼女を指さしながらジョウはボスに尋ねた。


「あら。だって言ったじゃない。困った時があったらここに来てって」


 しかし答えたのはジョウに指さされたサナで、彼女は少しも悪びれた様子はない。


「よく考えてみれば、私は身よりとは絶縁状態だし、お金は全部ジェイソンにあげちゃったし、ジェイソンを追って旅に出たことになってるからうかつに街を歩けないのよね」


 聞いてもいないのに、彼女はべらべらと話し続ける。


「ということでとっても困ってるからここにいさせてくれない?ちゃんと家事とか仕事はするから」

「……」


 肯定も否定もできないジョウは頭を抱えた。そんなジョウにサナは続けて言った。


「私を助けてくれるって言ったわよね?」

「ここは安全じゃないんだ!俺だって命を狙われている身だし!」

「あら、私ぐらい守れるでしょ?『そこら辺の奴にはやられない』んですものね」

「うっ……」


 何も言えなくなったジョウを見て、サナはニコニコしている。どうやらすっかり開き直ったようだ。


 ボスに助けを求めてジョウはボスを見た。


 しかしジョウが依頼で事務所を留守にしていた間、サナが先手を打って胃袋をつかんでしまったようで、『いいじゃないか』などと言ってのんきに笑っている。


 事務所の中に食べ物のいいにおいがすることからして、サナの胃袋をつかむ技術はかなり高いようだ。


「……分かったよ」


 味方が一人もいないことを知ったジョウはあきらめて小さくつぶやいた。


「勘違いするなよ!雇い主のボスの命令は絶対だからだ!」


 『ボスは命令なんて言ってないじゃない』と言うサナを無視して、ジョウはまた頭を抱えた。



 これから騒がしい日々がはじまりそうな予感がジョウの頭をガンガン叩いていたが、本人は依頼のせいで疲れているだけだと言い聞かせていた。



 遠くでは朝七時を告げるチャペルの鐘の音が響いていたが、それさえもジョウにとっては頭の痛くなるものだった。




チャペルの見える窓
一つの意志と愛と優しさの形


fin.

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