short novel

チャペルの見える窓








「サナ! 無事で良かった!!」



 あきるほど同じセリフを複雑な気持ちで聞き、やっと解放されたと思ったら、すでに夕暮れだった。



 ジェイソンはサナの遺書を受け取ったようで、サナの別宅へ行っても彼の姿を見ることはなかった。


 それを怪しまれないようつじつまを合わせるために、事務所にいるボスに報告した後、ジョウがでっちあげた嘘の話をサナと二人でサナの友人に説明していた。


 ――ジョウはサナを捕えていた誘拐犯とサナを見つけ出したが、サナを助けることが優先で誘拐犯を逃がしてしまった。ジェイソンは愛する婚約者を苦しめた誘拐犯を許せず、探して捕まえようと誘拐犯の後を追った。


 サナもジェイソンの後をすぐ追いたかったのだが、友人に心配をかけたので友人に無事な姿を見せてからジェイソンを追う……。



 すっかり説明慣れしたころには、その嘘はもう説明する必要のないものに変わっていた。



「ありがとね」


 夕日に照らされて赤くなっているサナの顔色はいいのかわるいのかは分からなかったが、そんなに悲しそうな顔をしているわけではなかった。


 サナはジェイソンのことで整理がつくまで、あのチャペルが見える窓の近くで過ごすそうだ。それから後のことはジョウには聞けなかったが、サナは自殺することはないだろう。


「……あぁ」


 ジョウはサナの身を案じていることを気づかれたくなくて、ぶっきらぼうに答えた。


「そういえば、あなたの名前まだ聞いていなかったけれど……」

「知らなくていい」


 サナが全て言い終わる前に、ジョウは言った。


「命の恩人の名前なんだから教えてよ!」

「俺は君を脅しただけだ」


 すっかり紳士的ではないジョウを見て、サナはあきれたようにため息をついた。


「あなたって、よく分からない人だわ」

「余計なお世話だ」


 ジョウは軽く返して、サナが数時間前まで隠れていた時計塔の前まで来て足を止めた。


「何か困ったことがあったら事務所に来い。ボスはいつもあそこにいるから」


 ジョウは精一杯の優しさで言ったつもりなのだが、言われた本人はただのあいさつ程度にしか思わなかったようで、うなずいただけだった。



 夕暮れの中、ジョウの影だけが彼の隣にいつまでも残っていた。





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