short novel

チャペルの見える窓





「何もそんな奴らのために死ぬことはないだろう」


 男は悲しそうな表情で思い出したように銃をつきつけた。


「私は愛する人と一緒にいられなくても平気でいられるほど、強くはなりたくないのよ」


 サナはそこまでして自分を止めようとする男から複雑な表情で目をそらした。


「それにそんなものは無駄よ。チャペルの正午の鐘の音が鳴ったら私は死ぬつもりだから」



 正午まではもう時間がなかった。サナを助ける手は何かないか考える時間稼ぎのために、男はサナから銃を離さなかった。


「あなたのような美形に殺されるのもいいかもしれないけれど、やっぱり他人の手は汚させてくないわ。だからもう……。私のことはあきらめてくれない?」


 男はサナの言葉を聞き流して、何か思いついたようだった。


 ふと何でもないことのようにサナが命よりも大切なものの名前を出して、さっきまで動揺を隠せなかった彼とは別人のように冷たく言った。




「……君がその手で自分の命を奪うなら、ジェイソンとその離婚の相手を必ず殺してやる」

「嘘っ!」


 サナはそんなことまでは考えていなかったようで、相手が銃を持っていることも忘れて男に駆け寄った。


「止めて!ジェイソンのことは放っておいて!」


 男はサナが自分の方に来る前に、銃を下していた。今にも自分にすがりついてきそうなサナを見て、深く地下にまで沈んでいきそうなため息を一つついた。



 そして本当に心から気が進まないように、サナの目を見て言うのだった。



「俺は悪党は絶対に許さない。……だけれど君の命を救えるなら、ジェイソンを見逃してもいい。それでも君はその手で自分の命を終わらせるか?」





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