short novel

チャペルの見える窓






 電話の相手は女性のようだった。


 何やらとてもお怒りのようで、甲高い怒鳴り声がところどころ聞こえる。



「……悪かったよ。しょうがねぇじゃねぇか。女が誘拐されて身代金まで要求されているんだからさ」


 話の内容からして、『女』とはサナのことだろう。


「……あぁ。女が死んだらすぐにありったけの金持って迎えに行くからさ。大丈夫、探偵には気をつけるって」


 どうやら光栄なことにジョウのことも知っているようだ。……『気をつければ大丈夫』なんて思われている所は実に気に入らないが。



「……すぐ行くから待っててくれよ、可愛い子猫ちゃん。……ん、俺も愛してるよ」



 ジェイソンがそう言い終わる前に、ジョウは近くの窓の鍵を開けて外に出た。


 ジェイソンが電話を切りそうなこともあったが、ジョウには今までの違和感の正体が分かったので十分だった。



 ……ただ、新しい問題が出てきてしまったが……。


 なぜ、犯人は、身代金の受け渡しをサナとジョナサンの結婚式予定日の正午にしたのだろう……。





 そのことを考えながら来た道を戻っているジョウの耳に、朝七時を告げるチャペルの鐘の音が響いた。



 顔を上げたジョウの目に映るのは、爽やかな朝の風景ではなく、事件の全貌だった。





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