short novel

チャペルの見える窓





 ジョウは見た目は穏やかな紳士で、表向きは探偵だが、裏の顔は凄腕のスナイパーだ。


 どちらの面でも彼の雇い主であるボスに言われれて彼が罪人だと判断すれば、探偵としてだろうがスナイパーとしてだろうが必ず片を付ける。



 正義の味方と言っても過言ではないくらい多くの人を救ってきたが、彼はその呼び名をひどく嫌がる。


 それは、彼がその銃の腕のせいで命を狙われているという面をもっているからかもしれない。




 しかし、今回の任務は彼の能力を持ってしても手に余るものだった。




 数日前、ある一人の女性が消失した。


 名はサナ・ウィルハーバー。金髪と緑の目の美人のお金持ちの令嬢。さらには、数日後に貧しいが男らしいのに紳士と有名な婚約者ジェイソンとの結婚を控えていた。



 サナが消失した翌日、サナの別宅でサナの帰りを待っていたジェイソンの元に誘拐を告げる手紙が届いた。


 高額の身代金を用意できなければ、サナは殺されてしまうという内容で、脅されてサナが書かされたのだろう、あまりきれいとは言い難いもののサナの筆跡で書かれていた。



 当然、貧しいジェイソンが身代金を用意できないが、サナは何の財産もないジェイソンとの婚約を決めたことで家族から絶縁状態にあり、誰も身代金を用意できるものがいなかった。


 ということで、サナの友人の寄付という形のお金とジェイソンの好意でジョウのところにサナを助けてほしいという依頼が来たのだった。



 しかし手がかりは、身代金をチャペルでサナとジェイソンの結婚式を執り行うはずだった日の正午に渡すことしかない。



 考えられるのは、チャペルの周辺にサナが監禁されていることだが、ジョウがここのところ何日かけてチャペルの周辺を探してもサナは見つからなかった。



 こうなると犯人に身代金を渡すまでは何もできることはない。



 ……だが、ジョウはこの誘拐事件に何か違和感を感じていた。



 まず、動機が何だか分からない。


 お金目当てならば、身代金を確実に用意できないサナを狙うはずがない。それとも、サナのことを調べていなかったのだろうか?


 それと場所も気になる。わざわざ人通りの多くて目立つサナとジェイソンの結婚式の場所にしたということは、サナとジェイソンの結婚に恨みがある者だろうか?

 その場合、サナが婚約を断ったお金持ちのご子息ぐらいしか考えられない。


 そうだとしたら、身代金なんていらないんじゃないんだろうか?




 いくら考えてもつじつまが合わなくてそれが何なのかはジョウ本人にも分からなかったが、残された他の手がかりといえばそれしかなかった。





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