short novel

Orion





 夜が来るのがだんだん遅くなっても、まだまだ春までは遠いみたいで、夕日が沈むと風は冷たかった。



「そういえば、陽子ってオリオン座見つけられるようになったの?」



 私がそんなことを考えていると、十代を半分以上過ぎた私に失礼極まりない言葉が聞こえて、私はそう言った相手に言った。


「もう見つけられるって!!だいたい、それ何度目よ!」



 私の反応を見て何がおかしいのか、ゲラゲラお腹を抱えて笑いながら歩いている学は、前から思っていることだけれどなかなか器用だ。


 ……認めるのは悔しいから、いつも怒っているふりをしたままだったけれど。


「だってさ、笑えるじゃん。オリオン座が空一面に広がるくらいの大きさだと思ってるから見つけられないって」


 あれだけ笑ってるのに、息ひとつ乱さず言ってのける学はやっぱり器用だと思うけれど、冬になると毎年おんなじことを何度も言うからやっぱり言ってはあげない。



「……笑いすぎだから。あれから何年経ってると思ってるのよ」


 私が少し歩くペースを早めるても、学はぴったり横に並んで……まだ笑っている。


「何年経ったって、笑えることは笑える」


 『笑えたことを悲しく思うよりはいいだろ?』なんてもっともらしいことを言って、私を納得させようとする手口は相変わらず目的を達成するまでには器用になっていない。



 ……器用になられたって困るだけだけれど。




 それから学が笑い終えるまで、私は何も言わずに早足で歩き続けた。





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