short novel

嫌いだけれど





 ……ここまで言われると、お姉ちゃん相手に隠していてもしょうがないと思うのは私だけだろうか。



 気が付けば、全部何も隠さず話してしまった後だった。



「もし春奈ちゃんが、あんたの大嫌いなにんじんを毎日食べたいくらい好きでさ、毎日一緒ににんじんを食べさせたらどうするの?」


 いきなりこんなことを言いだしたので、私はびっくりしたけれど、少しいらいらして言った。


「春奈が好きって言うなら、食べるけれど」

「でもものすごく嫌そうに食べるだろうね」


 私が虫の次ににんじんが嫌いというほどにんじんがきらいなことを知っているお姉ちゃんは、何の迷いもせずに断定した。……当たっているのが一番悔しい!!


「それとおんなじなんじゃないの」

「えっ?」


 私が春奈とにんじんがどう関係あるのか考え込んでしまったうちに、話は変わっていたらしい。


「あんたが無理に好きになろうとしたって、嫌いなものは嫌いでしょ。それを無理して好きになろうとしても、春奈ちゃんは喜ばないと思うし、いつかボロがでるよ」


「だけど、春奈とは今まで通り仲良くしたいの」


「このままじゃ無理だけれどね。とりあえず、その新しくできた友達との関係を聞いてみたらいいじゃない」


 お姉ちゃんは首にかけたオレンジ色のタオルで無造作に髪をふきながら言った。


「……そんな簡単に聞けるわけないでしょ」



 私がこう言っても、お姉ちゃんは全然大したことなさそうに言った。



「だって、春奈ちゃんとは親友なんでしょ?そのぐらい聞けなくてどうするの」



 もっともなことを言われて、私は何も言えなくなってしまった。



「だいたい、親友て言ったって自分とは違う人間なんだから何もかも好きにならなくちゃなんてことはないでしょ。逆に親友とか親しい人だったらなおさら自分は違うってこと言わなかったら本当に仲がいいなんて言えないでしょ。そんなので終わっちゃう関係なら、きっとそこまでの関係なんだよ」


 お姉ちゃんは一気に私を叱っているように言った。


 春奈をはじめ、お姉ちゃんを知っている私の友達はみんなこんなお姉ちゃんを優しくてさらにはうらやましいなんて言うから不思議だ。



 お姉ちゃんはいつも厳しいことを言うけれど、そこにはいつもどこかにあたたかさがある。冬は寒いけれど、だからこそこたつを暖かく感じるのと似ているかもしれない。



「……うん。明日聞いてみるよ」


 そしていつも、いつの間にかうなずいてお姉ちゃんが言った通りに行動してしまう。


「春奈ちゃんはそんな子じゃないから大丈夫だと思うよ。夜遅いんだからごろごろしてないでお風呂入ってきたら?」

「うん……」



 なんとなく何かをする気になった私は、ベッドから体を起こした。



「あとね、今日の夕ご飯ハンバーグだって」

「嘘っっ!どうして誰も言ってくれなかったの!?」

「さぁねーー。悩み事に夢中すぎて聞こえてなかったんじゃないの?」


 笑いながら言うお姉ちゃんも、大好物のハンバーグにつられてしまう私も変わらなくて……。




 とりあえず、ハンバーグがこれ以上冷めないように、私は台所へ駆け出した。


嫌いだけど……
親友だから
言わなくちゃいけないこともある




fin.

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