short novel

猫と昼下がり





『人間が暇そうにしてるのは珍しいな』

「……えっ?」



 今……。声がした?いや空耳?


 空耳のはずだ。だって今日は夜まで誰も帰ってこないから、私一人のはずなのだから。


 時計を見ればまだ13時。誰かが帰ってきた物音もしなかったし、家には私一人しかいないはずだ。


 何だか怖くなって、私はしばらく振り向けずに何も考えられなくなった。




『ちょっとこのあたたかそうな場所を貸してもらおうかな』



 さっきと同じ声がした。間違いない!誰かいる!



 私はばっと起き上がって辺りを見回した。



 確かに、そこには『誰も』いなかった。


 だけれど、そこには一匹のこげ茶のしま模様の大きな猫が体を丸めていた。


 いつ、どこから入って来たんだろう……。カーペットがよっぽど気に入ったようで、機嫌良さそうに目を細めている。



「……さっきからしゃべってるのって、あなた?」


 猫に話しかけるのもバカみたいだなとか思ったけれど、私は声に出して聞いてみた。


『珍しいな。人間にわしの声が聞こえるなんて』


 猫の方もびっくりしたみたいで、私の方を見て真ん丸な目を最大限に広げて私を見ている。


 それはやっぱり普通の猫そのもので……。





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